クロロ=ルシルフルは長時間乗っていた飛行船から降り、さらにバスで数時間揺られた。それからようやく着いた街を良くも悪くも平凡だとしか思えなかった。
仲間の情報によればこの国のどこかにお宝があるらしい。しかしそれが具体的にどういう物なのかは分からないと言う。広い範囲を暇な仕事仲間で手分けして探し、新しい情報を得たら再び集合すると言って別れたのが半日前。情報源だけは確かだと言う仲間を信じてこの国にやってきたクロロだが、本当にこんな平和ボケしたような街にお宝があるのだろうかと改めて疑い始めた。
街の入口は行き交う人々で賑わっている。多くの人とすれ違いながらクロロは観光客のように街を見渡した。建物の外観は歴史を感じさせるが比較的綺麗に保たれている。
宿を探して早めに休もうと決めたクロロは、少ない荷物を持って大通りを抜けて行った。まだ明るいので外を出歩く人も多く、特に商店街は賑わっている。その雰囲気に紛れてクロロは何かそれらしいものはないかと辺りを見回した。しかし目当ての物が人通りの多い場所にあるわけはなく、ほとんど流すようにあちこちを見るだけだった。
しばらく歩いて宿を探していると、ふと目に留まった建物は教会だった。古い造りだが独特の雰囲気に惹かれ、どんな内装なのか気になり中を覗こうとして古びた扉をゆっくりと開けた。
街の規模の割に質素な教会だが、鮮やかなステンドグラスを通して日の光が射し込んでいる。御堂の奥にはその光に照らされている女神像が見えた。その像の周囲には沢山の花が添えられている。見渡すと中には何人か人がいたが、それぞれ席について静かに祈っているだけだった。神父の姿が見えないなと思いクロロが聖堂で立ち尽くしていると、一人の女が彼に声をかけた。
「こんにちは。こちらは初めてですか?」
「あぁ、こんにちは。観光で来たんですよ。綺麗な教会ですね」
「ありがとうございます。随分昔に建てられたんですよ」
女はこの教会のシスターらしい。修道服を纏っているが、シスターとしては随分若いように見える。柔らかい物腰で、太陽の日差しがより一層それを引き立たせた。ちょうど良かったと思い、クロロは女に尋ねる。
「この辺に宿はありますか?」
「はい。ここを出て右の大通りを通ると本屋が見えて、そこを左に曲がってしばらく真っ直ぐ進むと宿の看板が見えますよ。随分お疲れのようですね?」
「長時間バスに揺られたものでね。助かりました」
「それは大変でしたね……どうぞゆっくりお休みになって観光を楽しんで下さいね」
「ありがとう。しばらく休んだらまたこちらにお邪魔します」
「ええ、お待ちしてます」
シスターはちらりとクロロの額の包帯を見たがそのまま笑顔で見送った。シスター以外の人間達はクロロ達に目もくれずに祈りを続けている。去り際にクロロが彼らを見た時、席に着いたまま女神像を向き、手を組んで目を閉じていた。独特な雰囲気の中で笑顔で佇むシスターは不思議な存在に見えた。
シスターに教えてもらった通りの道を通り、早いうちに宿に着いたクロロは部屋のベッドにどさっと腰掛けた。そういえば、と思い出して仲間に連絡を取ろうと連絡してみたが、取り込み中なのか相手は出なかった。
することがなくなったので先ほど通りがかった本屋に行こうかとも考えたが、長時間の移動のせいで体がだるい。何かないかと部屋を見渡すと、何故か机の上に覚えのない分厚い本が置いてあった。手に取ってページを開いてみると、それは所謂「聖なる書物」というものだった。何でこんなものがここにと不思議に思った時、携帯電話が鳴った。
「シャルか。そっちはどうだ?」
「ちょっと取り込んでてね。これから色々調べてみるつもりだよ」
「そうか。宝があるとしたら首都の美術館辺りだと思うが」
「それは調べてみないと分からないよ。意外と田舎に隠されてるかもしれないし」
お宝の情報を最初に嗅ぎつけたのは電話の相手であるシャルナークだった。暇な団員数人で、という予定だったが今回はクロロ含めて5人だけの参加だ。
シャルナークがこの国のお宝の情報を耳にしたのは偶然のことだった。つい先日行った仕事はいつもと同じように美術館からお宝を頂戴するだけだった。突入する何日か前、シャルナークが美術館の所有者である人物を盗聴した時に偶然その内容を知ってしまったのだ。仕事のついでにその所有者に直接問いただしても彼自身詳しいことは知らないようで、結局分かったのはお宝のある国と「人を幸せにも不幸にもする」物だということだけだった。そして盗賊に追いつめられたのが彼の最期だった。
「ところであの男が電話で話していた人物は目星がついたか?」
「いや全然。相手がわざわざ音声変えて電話してたし聞き取りづらかったからね」
「そうか。もし誰なのか分かったら教えてくれ」
「了解。それとさ、そっちの宿に変な本なかった?」
クロロが心当たりのある本は、例の分厚い本しかなかった。ちょうど目の前に置かれている本は、地味な割に厚さはしっかりとしている。
「この国の過半数がその宗派らしいよ」
「よく分からない新興宗教みたいなものでないなら別にいいさ」
「あはは、まぁね。それに近々お祭りもあるみたいだよ」
「祭り?」
「その宗教の神様のための祭りだよ。女神様だったかな。お宝の情報を探しつつ、祭りも楽しんでいいんじゃない?」
あれのことか、とクロロは教会で見た女神像を思い出した。地域ごとに宗教性のある祭りがあるのは珍しくはない。この国独特の宗教らしく、特別有名なものではないが、祭りが観光の一部であるのならおかしな宗教でないことは確かだ。
お宝について調べなくてはいけないので、シャルナークの言うとおり祭りに溶け込んで情報収集するのも悪くない。できれば祭りが終わる頃までには手に入れたいものだ。クロロはお宝の情報が本物で、なおかつ期待以上のものであればと願うばかりだった。